麻酔に対する私たちの考え
麻酔や痛みへの私たちの考え
「動物は痛みを感じるのか?」
嘘のような話ですが、このようなことが議論されていた時代がありました。
その当時は動物に対する痛みの研究もあまりされておらず、手術を行う際にも十分な鎮痛(ペインコントロール)も行われていませんでした。今では人と同じように動物も痛みを感じるというのは当たり前の事実として認識されています。しかし、残念なことに多くの動物病院で積極的に動物に対するペインコントロールがされているかというとそうではありません。むしろあまり積極的に行っていない動物病院の方が多いのが実情です。
麻酔とは本来、動物に不安や痛みを与えずに治療をおこなうもので、動物の心と体を守るためのものです。
ウィキペディアにも麻酔についてこう書いてあります。
麻酔(ますい、痲酔とも)とは、薬物などによって人為的に疼痛をはじめとする感覚をなくすことである。主に医療で治療などにおける患者・動物の苦痛を軽減させると同時に、筋の緊張を抑える目的で用いられる。これにより、手術を受けることができ、また、耐え難い苦痛を取り除くことができる。
私たちは少しでも動物の痛みや不安を取り除くために、局所麻酔を併用しています。
全身麻酔と局所麻酔
麻酔には全身麻酔と局所麻酔があります。
全身麻酔は注射やガスで中枢神経を抑制させる麻酔で、通常は意識は消失します。
これに対して局所麻酔というのは局所の末梢神経に作用し、痛みを取り除きます。局所麻酔は通常意識を消失させません。たとえば歯医者さんで抜歯をしたり、歯内療法をするときにおこなうのも局所麻酔ですね。
人の手術には全身麻酔と局所麻酔の併用が多く用いられますが、動物の麻酔は一般的には全身麻酔を中心におこなわれる病院がほとんどです。しかし、痛みを抑える作用はじつは局所麻酔の方がはるかに強いんです。
当院では局所麻酔である硬膜外麻酔や浸潤麻酔、神経ブロックを手術を行う場所によって全身麻酔に併用しています。
また、作用機序の異なる鎮痛薬を併用することで、それぞれの薬物の量を減らし、効果的な鎮痛を達成するマルチモーダル鎮痛という考えで鎮痛をおこなっています。
ALOHAに今勤務している看護師が就職前の見学に来た時に、麻酔科医の先生の麻酔や鎮痛をうけた動物がとてもおだやかに麻酔から覚めていくのをみて、「今働いている病院は手術後の動物が麻酔から覚醒(さめる)する時に、痛そうにきゃんきゃんなきながら覚めていくのに、どうしてこの子たちはみんなおだやかに覚醒していくんですか」と泣きながら話してくれたことがとても印象的でした。
このように、全身麻酔と局所麻酔を併用した施術は、動物のいたみを最小限に抑えることができるのです。
麻酔科医と連携した教育のこだわり
人では手術の際に麻酔科医が麻酔を担当します。つまり麻酔やペインコントロールを専門に行う医師がいるということです。
実は動物医療の世界にも麻酔科医はいます。ただ、まだ非常に少ないというのが現状です。
そこで当院では、麻酔科医の先生に定期的に来てもらって、麻酔についてもらうことで、動物の負担だけでなく、飼い主さんの不安も少しでも減らす取り組みをしています。
私は、当院で働く獣医師が将来、動物の麻酔科医として独り立ちして欲しいと本気で考えています。この動物の麻酔と鎮痛のページを作ったのも、多くの獣医師、そして飼い主さんにこのページを見てもらって、もっとたくさんの麻酔科医が今後でてきて、そして多くの動物病院で麻酔科医が麻酔をおこなうという時代が来て欲しいと考えているからです。そのためのスタッフ教育も強化しています。
麻酔に対して飼い主さんが不安を感じられるお気持ちはとてもよく分かります。少しでもその不安や心配を取り除けるように努力していきたいと思います。ご質問があれば、遠慮なくスタッフに声をおかけ下さい。