歯科症例5 歯科矯正
矯正には抑制矯正、外科的矯正、矯正的矯正がありますが、いわゆる人で一般的にいう矯正は矯正的矯正にあたります。犬でもこの矯正的矯正が行われることがありますが、美容的な面よりも、治療として行われることの方が多いです。
症例(ミニチュアダックス、8ヵ月、オス)
健康診断時に乳歯遺残による犬歯のクラス1不正咬合(上顎と下顎の長さは正常だが、単数あるいは複数の歯に不正咬合がある)が認められた。
今回の矯正をわかりやすく説明するために、正常な咬合を模型で説明します。犬の犬歯のは上顎が乳歯の吻側(前側)から、下顎は乳歯の舌側(内側)から放出してきます。この時に正常であれば上顎の犬歯の乳歯が抜けて犬歯の永久歯が後方へ、下顎の犬歯の乳歯が抜けて下顎の犬歯が口唇側(外側)へ移動します。そうすることで上顎の犬歯と第3前臼歯の間に下顎の犬歯が咬合します。乳歯遺残があったり、顎の長さに問題があると、この咬合がうまくいかない場合があります。特にダックスなどの顎の幅の狭い犬種は起こりやすいと言われています。
右側の写真です。上顎犬歯の乳歯が抜けていないため、上顎犬歯が後方へ移動できないため、下顎の犬歯が本来はいるべき隙間がなく、下顎の犬歯は舌側(内側)に萌出しており、歯肉への潰瘍を形成しています。
本来は上顎の第3切歯と犬歯の間に下顎の犬歯が放出しなければいけません。
左側の写真です。右側と同様下顎の犬歯が入るスペースがないため、下顎の犬歯が上顎犬歯の口蓋側にあたり、歯肉へ潰瘍形成をしています。右側よりさらに重度です。
当初は外科的矯正(外科的に一度に犬歯を移動させる方法)を行う予定だったため、デンタルレントゲンで歯根の様子を確認しました。歯根は思ってた以上に長くなっており(歯の成長に伴い、歯が放出している間、歯根も伸びていきます)外科的矯正の適応ではないことがわかりました。
外科的矯正の適応ではなかったため、飼い主さんと相談の上、矯正を行うことになりました。乳歯を抜歯し、歯にブラケットを装着し、エラスティックチェーンで牽引します。
矯正装置をつけて2週間後の写真です。徐々に移動しているのがわかります。この間は1〜2週間おきに検診をし、エラスティックチェーンの牽引力を適切な力に調節します。
矯正を始めて40日後です。上顎犬歯はかなり移動してきました。下顎の犬歯が入る隙間ができてきたため、下顎犬歯は以前に外に向いてきました。
同様に40日後の左側です。右側と同様、かなり移動してきました。
50日後の写真です。ほぼ正常咬合になったため、装置を除去し、装置の周りについていた歯石を除去し矯正終了です。
同じく50日目の左側です。右側同様正常な咬合になりました。
歯科矯正は不正咬合のパターンによっては非常に有効な手段です。ただ、時間がかかるため、飼い主さんの理解なしではできない処置です。


